第3章 ◆甘い口付け ★★☆☆☆
突然のことに俺は体が動かせずにいたが、心臓はこれでもかというほど鳴っている。
触れるだけの口付け。
さきほどまでは、あんなに激しいものをしていたというのに。
それでも彼女からされると、この柔らかい口付けだけで、天にも昇る心地になった。
彼女はそれが済むとすぐに離れ、真っ赤な顔で俺を見た。
「すみません、勝手に……。でも、これからの夜伽の手順がどんなものかは分かりませんが、その……今日の口付けは、私はすごく気持ち良かったです。…長谷部さんとなら、いつまででもしていたいくらい」
「…主…」
「だ、だからその……これで最後だと思うと少しもったいなくて…」
彼女は触れた唇の感触を大事そうに指でなぞっている。
俺はあまりの言葉に、頭が真っ白になった。
……もしかして、俺はまだ夢を見ているだけなのだろうか。
「……ある、じ……」
俺は胸が苦しくて言葉が続かなくなった。
すると彼女は、慌ててそんな俺を障子の外へと追いやる。
「すすすすすすみません! 私、本当に恥ずかしいことばかり言ってますよね…! もう寝ましょう! お休みなさい!」
「主っ…!」
ピシャン!、と。
目の前で障子が閉じられた。