第3章 ◆甘い口付け ★★☆☆☆
『主さま。通達でございます』
「はいっ」
こんのすけの声とともに、シュッと通達の紙が差し入れられた。
主はそれを受け取り、開く前に長谷部に渡した。
主導権を長谷部に委ねる意図があってことだったが、彼もそれを理解し、戸惑う主の代わりに開く。
『ニ夜目。
抱き合い口付けを交わすこと』
「…主、今夜は、このようです」
開いた文面を主に見せると、彼女は顔を真っ赤にし、コクコクと頷いた。
二人とも、この内容はなんとなく予想がついていた。
「…口付けなら分かりますから、大丈夫だと思います」
主の言葉に、長谷部はピクリと揺れ、目を細めた。
「…したことがおありですか?」
「あ、ありません!…でも、知識としてなら多少は…」
「そうですか…」
(良かった…)
長谷部はホッと胸を撫で下ろすと、膝を主と付き合わし、その目をじっと見つめた。
「…緊張していますか、主。少し、時間を置いたほうがよろしいでしょうか」
「…いいえ、大丈夫です」
本当は、主は長谷部と口付けを交わすことをずっと夢見ていた。
普段、想いを寄せる彼との想像に耽るとき、想像の幅が狭い彼女が思い付くのはいつも「口付け」だったのだ。
もし、彼と口付けをしたなら…と、いつも想像してはドキドキしていた。
唇と唇をつける感触は、まったく想像できないわけではない。
実感してみたくてナイショで大福餅を唇に充てたことだってある。
きっとあの感触がするはずだ、と主は考えていた。