第18章 ◆番外編5「狼」
部屋への冷たい廊下を歩いていくうちに、主の酔いはほんの少し覚めていく。
そばを歩いてくれる長谷部に、時間稼ぎのつもりで話しかけた。
「長谷部さん。鶴丸さんが言った“送り狼”とは何ですか?」
聞かれた長谷部は戸惑った。
主はこのように、性についてよく耳にする言葉を知らないことがある。
それは彼女が、まっすぐ純真な環境の中で汚れることなく育ってきたからだと思うと、長谷部は自分がそれを汚してしまったように感じた。
そしてそのことに、かすかに興奮する。
「…ええと、送り狼とは、つまり…」
「はい」
「見送りの際、相手の部屋で…」
長谷部はハッとした。
詳細に説明すれば、自分がいつもしていることが送り狼だとバレてしまう。
あまり良い意味の言葉ではないだけに、長谷部は明言することを躊躇った。
「相手の部屋で?」
「相手の部屋で…。その…不意をついて、驚かすことです」
とんちんかんな説明に落ち着いたわけだが、主はそれを聞き、赤ずきんと狼のお話を思い出した。
赤ずきんを騙して食べようとした狼。
あながち本来の意味に遠くもない。