第3章 ◆甘い口付け ★★☆☆☆
「…私は長谷部さんに審神者として一人前にしていただいて、最近やっと恩返しができると嬉しく思っていたんです。
…でも、このようなことで、また長谷部さんに頼ることになって…」
「…そんな、主、俺はっ」
「いいんです。…長谷部さん、通達の手順どおりにできるかとても心配されていましたよね」
図星をつかれ、長谷部はうろたえた。
主に気づかれた、と。
「…分かっています。通達といえど、私相手にできることとできないことがありますものね。私もこうなるとが分かっていたら、もう少し女としての技量を勉強したのですが…すみません」
(…違うっ、そうではない)
彼女は勘違いをしていた。
長谷部が手順について心配していた理由は、耐えきれずに自分が手順以上のことをするのではないかということで、決して主相手に夜伽ができないという意味ではない。
「主っ…」
彼女に「女としての技量」などというものを不安にさせてしまい、長谷部は身を刺すような思いがした。
(主はすでに女性として、魅力ばかりのお人だ…。主のそばにいて、何度男としての衝動にかられたことか…)
しかしそれを伝えるのは、自分の想いを吐露するのと同じこと。
長谷部は慎重に言葉を選んだ。
「主は十分素敵な方です。今のままで、十分、その、女性として…」
すると主は見て分かるくらいに顔を赤らめた。
「長谷部さん…」
彼女は複雑そうに、しかし「ありがとうございます」と言った。
彼女はおそらくお世辞だと思っているのだと、長谷部にも読み取れた。
これ以上を言葉にすることはできないが、長谷部は少し意地になった。
夜伽の時間になったら、決して自分からは止めて差し上げない。彼女が嫌がるまで何時間でも続けてみせる。
自分がどれほど主を女性として見ているか思い知らせてみせよう、と。