第16章 ◆番外編3「見合い」
先輩さんが“ポケ子ちゃん”と言うと、私の隣にいる長谷部さんがピクリと反応した。
そして、私にだけ、低い声で尋ねてくる。
「…何です、あの呼び方は」
「先輩さんは前から私のことそう呼ぶんです。ポケッとしてるから、ポケ子ちゃんなんですって」
そう説明すると、長谷部さんは苦虫を潰したような表情に変わり、「主のことをそんなふうに…?」と呟いた。
私は慌てて「新人のときは本当にポケッとしてたから…」とフォローしても、長谷部さんは怖い表情を変えない。
「ほら、ポケ子ちゃん早くおいで」
私を会席のお部屋へと案内してくれるみたいで、先輩さんと乱さんは振り向いて催促してくれた。
先に歩き出す彼らに、私は慌てて着いて行こうとする。
すると突然、長谷部さんに手首を掴まれ、引き留められた。そして…
─ちゅ…─
一瞬の隙をついて、口づけをされる。
「……えっ」
私は思わず立ち止まった。
慌てて前方を確認したが、先輩さんたちは背を向けて歩いているため気づかれてはいない。
「…長谷部さんっ…」
小声で注意しても、長谷部さんは何もなかったように隣を歩くだけだった。
こんなことされたら、変にドキドキする。
長谷部さんったら…。
バレちゃったらどうするつもりなの…?