第3章 ◆甘い口付け ★★☆☆☆
丁寧な動作で中へ入ってきた長谷部さんは、いつものきっちりとした身だしなみで、澄んだ表情をしている。
陶器のような肌に、手を絡ませたくなるような繊細な髪。
目鼻立ちに濃さはなく、引き算された完璧な顔立ち。
…いつもはこんなに彼のことをじっくりとは見ないのに、昨晩のことがあったからか、目が釘付けになった。
「おはようございます。…よく眠れましたか?」
「は、はい。おかげさまで…」
つい流れで答えてしまったが、「おかげさまで」だなんて何を言っているんだろう、とハッとする。
恥ずかしくなってすぐに顔を上げた。
「…主、それは、その…」
彼も同じ顔をしている。
わあ、どうしよう、私の馬鹿…!
「す、すみません、変な意味じゃなくてっ…その…」
「だ、大丈夫です! 分かっています、申し訳ありません」
妙な雰囲気に包まれて気まずくなったところで、障子の向こうに小さな丸い影が現れ、『主さま』と声がした。
「こんのすけさん?」
『少しよろしいですか』
「はい。どうぞ」
開けてあげると、ちょこんとこちらへ入ってきて、並んで立っている私と長谷部さんを見比べている。