第3章 ◆甘い口付け ★★☆☆☆
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翌朝、私はいつもより少しだけ早く目が覚めた。
あれからなかなか寝付けなかったけれど、気づいたら眠っていた。
…昨晩の長谷部さんとのこと、まだ耳に感覚が残ってる。
─『主…それでは、俺はそろそろ戻ります』─
…昨日の長谷部さん、やっぱり困ってたよね…。
そりゃそうだよ、好きでもなんでもない相手といきなりあんなことさせられて…。
長谷部さんは優しいから何も言わなかったけど、最後、すぐに自室に戻りたいことが伝わってきた彼の背中を思い出すと、胸が痛くなった。
…好きなのは、私だけなんだろうな…。
分かってたけど…。
心の乱れを悟られないようにきちんと着物を着付けた。
つらいことがあったとしても、それは審神者の仕事に影響してはいけない。
私の力を必要としてくれる皆がいるし、それに、長谷部さんは、私が立派な審神者になれるように力を貸してくれているのだし。
…長谷部さんのためにも、審神者として、もっとしっかりしなきゃ。
「…主、お目覚めでしょうか」
長谷部さん…!
彼の声が障子の向こうから聞こえ、平静を装おうと思っていたのに、高鳴る胸は言うことをきかない。
落ちついて、落ちついて…。
「は、はい。どうぞ」
「失礼致します」