第15章 ◆番外編2「現代遠征」
『ここへは仕事で来ている』
主に対してではなかったが、長谷部もそう言っていた。
主はそれを真に受けたが、もちろん、そんなのはあの女性たちを蹴散らすための長谷部の方便だったのだ。
長谷部だって、先ほどから主のことしか考えていない。
今夜のことに胸を踊らせていたのに。
しかし長谷部は、控えめだが彼女に叱られたことに取り乱した。
「あ、あのっ…申し訳ありません…!」
「…私も言い過ぎました。長谷部さんには一日付き合ってもらったのに…」
「いえ…今日は遠征で…大事な任務で来ているんですよね。承知しています。以後気を付けますので」
キリッと謝罪をした長谷部だが、その心の内はどんよりとしていた。
(何を浮かれていたんだ、俺は…。真面目な主は観光気分ではないのに…。夜のことばかり考えて…)
自分を恥ずかしく思った長谷部は、それからどこかぎこちない。
主も同じだった。
長谷部は何も悪くないし、むしろ饅頭をぶら下げて帰ってきた自分のほうが浮かれているが、あの女性グループに絡まれていた長谷部を思い出すとどうも割り切れない気分になる。
自分より、あの女性たちのほうが美人に見えた。それに、スタイルも。
防寒重視だった主と高いヒールの女性たちではそもそも比較できないのに、彼女はその差にすっかり落ち込み、貸し切り露天風呂に一緒に入るつもりでいたことさえ恥ずかしくなった。
(華やかな女の人たちを見て、長谷部さん、私のことどう思ったかな…。比べられちゃったかな…)
それぞれにいたたまれない気持ちを抱え、それからの二人はギクシャクしていた。