第15章 ◆番外編2「現代遠征」
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宿へ戻り、すぐに部屋へと案内された。
畳に座布団の部屋に、窓際には椅子とテーブルが備え付けられている。
和風テラスには檜の露天風呂があり、そこに浸かりながらライトアップされた滝が一望できるようになっていた。
あまりにロマンチックな部屋に、長谷部はすぐにでも彼女を抱きたくなった。
しかし主がせっせと荷物の整理を始めたため、それをグッと我慢する。
(夜はまだ長い。…今夜は主と、本当に二人きりで過ごせる…)
立ち尽くしたまま彼女に見惚れていると、主は長谷部に気付いて近寄ってくる。
「長谷部さん。こちらにコートを掛けますね。脱いでください」
「は、はいっ」
長谷部は慌ててコートから腕を抜き、二つに折って彼女のところへ持っていく。
すると、コートの袖口から、小さな紙がひらりと落ちてきた。
「なんだ……?」
長谷部は心当たりがなかったため、それを拾い上げて確かめた。
主も、横から覗きこむ。
『080ー✕✕✕✕ー✕✕✕✕』
それを見た主は眉を寄せ、フイッと顔を逸らした。
「なんでしょうか、この暗号は…」
まだそれを観察する長谷部に、彼女はふて腐れた声で返事をする。
「連絡先です。さっきの女の人だと思いますよ。…長谷部さん、いつもと違って迂闊ですね。まんざらでもなかったりして」
「えっ…?」
「もうそんなものは貰ってこないでください。今日はお仕事で来ているのですから、気を引き締めないと」
嫉妬心を隠すため、彼女はらしくないことばかりが言葉に出てきた。
本当はそんなことは思っていない。
誰よりも長谷部との二人旅を楽しみにしていたのは彼女なのだ。