第15章 ◆番外編2「現代遠征」
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気を取り直し、花岩へ。
温泉街から一本離れた小道をマップのとおりに進み、目的地である花岩へと到着すると、紙垂の巻かれた大きな岩が姿を現した。
それは長谷部の背よりも大きな玉子形で、苔が生えた上に今は白い雪がかかっている。
主はそれを眺めながら、長谷部に呟いた。
「ただのお墓が、今では多くの人が訪れる場所になっているんですね。どんな小さなことがきっかけでも、時が経てば歴史に影響してしまう…。政府の伝えたいことも分かりますが、情けをかけてしまった審神者さんの気持ちも分かる気がするんです…」
「主…」
「…ふふ、分かってますよ。随行軍の歴史改変を許してはいけません。私たちはそのために戦っているんですものね」
花岩から学ぶべきことを再確認した後、彼女は墓に手を合わせた。
随行軍は憎き敵、そう認知していた長谷部は彼女のそんな行動に戸惑いを隠せない。
「主っ…貴女がこの墓に礼を尽くす必要はっ…」
「死んでしまえば皆同じだと思うんです。成仏してほしい。成仏したくて自分のお墓を建てたんでしょうから…」
長谷部のたしなめは聞かず、主は手を合わせ続ける。
彼女は長谷部には強制しなかった。
しかし、主の真っ直ぐな心に、敵であっても死者は成仏されるべきだという考えを見つめ直した長谷部は、同じように手を合わせ、目を閉じた。
(彼女といると、心が洗われるようだ…)
長谷部はまた主を愛しく思った。
これほどに慈愛の心を持った彼女が、刀の自分を好きだと言ってくれる。
尊くて恋い焦がれた主は、今では自分の恋人なのだ。
その事実が、長谷部はたまらなかった。