第12章 ◆長谷部の恋 ★★☆☆☆
「……」
するとなぜか、それまで微笑みながら主を諭していた長谷部が唐突に黙り込んだ。
固まったまま、何か考え込んでいる。
「……長谷部さん?」
「…主、もう一度…口付けていただいてもいいですか?」
「え……?」
長谷部が言ったのは、もう一度"手に"口付けてほしいということ。
彼は何か思うところがあってそう申し出た。
しかし、主は自分の思うまま、彼の唇に顔を近づけていく。
「…長谷部さんっ…」
そして唇に口付けた。
「んっ…」
唇にされるとは予期していなかった長谷部だが、もちろんこれを受け止め、酔いしれた。
しばらく唇が重なり、離れた後で、長谷部は確信する。
「…口付けをすると、痛みが弱くなります…」
「……え?」
そう言われ、主は長谷部の痛んでいたであろう箇所を目視で確認した。
腕や足の細かい切り傷が薄くなっている。
明らかに先ほどまではぱっくりと裂けていたのに。
「長谷部さん、これって…」
「主、もう一度お願いします」
「はい」
今度は長く、舌を入れあった。
─ちゅ…ぴちゃ…─
長谷部は口の中も切っているため、主は血の味を感じながら、彼の口内の切り傷を探り当てて優しく舐める。
今度は彼女もしっかりと感じた。
舌が触れた切り傷が、元に戻っていくのだ。