第12章 ◆長谷部の恋 ★★☆☆☆
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長谷部の手入れが始まってから五時間が経過していた。
主は大量の資材を使うことで、どうにか傷口の止血に成功していた。
夜伽の効果が多少働いたのだろう。
当初の見立てでは、この状態になるまで二十時間かかると想定されていた。
「はあっ…はあっ…」
引き換え、主の疲弊はすさまじいものだった。
しかし重傷の長谷部を目の前にし、一時も休息など取ろうとはしない。
集中力が途切れるからという主の申し入れで、手入れ部屋には長谷部と主だけとなり、部屋の扉の外に交代で誰かが立っていた。
燭台切と短刀たちの手当てを広間で薬研が行い、その他の皆はそれぞれできることをやるしかなかった。
出血は止められても、傷口は一向に消えない。
「………うっ…」
「長谷部さん!」
「……ある、じ……?」
途中、長谷部が意識を取り戻した。
主が泣いてすがりつくと、長谷部はまだはっきりしない意識の中でも、彼女の頭を撫でようとする。
しかし手が動かなかった。
さらに意識を取り戻したことで、身体中につき刺さるほどの痛みを感じることになる。
「クッ……ぁあっ……!」
「動かないで長谷部さんっ…今治しますからっ…!」
そうは言いつつも、主はこの傷の深さに絶望さえ感じ始めていた。
『治せない』
止血に成功し、意識を取り戻した。
しかし、どんなに資材を投入しても、それより先に進む気配がないことを彼女は気付き始めていたのだ。