第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
存在感のある矢が消え、指示書は私たちの足元に落ちてきた。
私は長谷部さんに戸惑いの視線を送る。彼は目を見開いて、言葉を失っていた。
私も、本当に指示が出るとは思っていなくて焦りを感じている。
だってここはまだ外で、しかも神聖な祠の中なのに…。
「…長谷部さん、私、見てみますね」
今は長谷部さんの体調が悪いんだから、私が進めていくべきだ。
こんなときくらい役に立たなくちゃ。
指示書を拾い上げ、開いてみる。
『近侍の望むことを自由にしてよい。ただし挿入はしてはならない』
えぇ…? また初めての文面。
挿入っていうのは、きっと体を繋げることだから…それ以外なら、何でもしていいってこと?
長谷部さんがしたいことができる。良かった。
「見てください。最後まではできないようですが、長谷部さんのしたいことを自由にしていいと書いてありますよ」
外とはいえ、つらそうな長谷部さんにとって今はちょうどいい指示かもしれない。
これで元気を出してくれればいいな。
そう思ったのに、文面を見た彼は喜んでいる様子はなかった。
それどころか絶望的な表情を浮かべている。
「長谷部さん…?」
「…なぜよりによって今そんな指示がっ…」
「え…? でも、媚薬のせいでおつらいでしょう? 解消するために何でもしていいのですから、ちょうど良かったじゃないですか。長谷部さんは何をしたいですか? どうしたら楽になります? 何でも言ってください」
「主っ…あまり聞かないで下さいっ!何もするつもりはありません! …言ったでしょう、今の俺は、主に何をするか分かりませんから…!」
長谷部さんは大きな声を出して私を叱った。
怖かったけど、真っ赤な顔で苦しそうにしている彼が心配でたまらない。
私に遠慮してほしくないのに…。
どうして長谷部さんがそこまで意地になるのか分からないけど、それなら私が頑張って聞き出さなきゃ。