第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
長谷部さんは凛々しい表情を一切変えずにそう言ってのけた。
「触れたくてたまらない」などと言われて私のほうは言葉に詰まってしまい、下を向くしかなかった。
求められる言葉を言われるのは嬉しい。でも長谷部さんは苦しそうだから、素直に喜べないよ…。
何とかしてあげたい…。
私に出来ることを探してみて、いくつか思いついたことはあるけど…どれも軽はずみには提案できない。
長谷部さんは私のことを思って、近づかないように忠告してくれたから。
それはきっと彼の考えがあるんだと思うし、私の安易な思いつきで中途半端なことをして、逆にご迷惑になってしまったらダメだ。
「…長谷部さん…」
ここが本丸で、いつもの自室だったら、長谷部さんが楽になるためのお手伝いができたのに。
この間みたいに私が口を使って奉仕をしてもいいし、気が済むまで触ってもらってもいい。
でも、今は外で、しかも祠の中だし、とてもそんなことできない。
ううん、本当は私はできるんだけど…お地蔵さまの前でそんなことしたら、きっとダメだよね…?
……違う違う! その前に、夜伽の指示がないのにそういうことをするのは禁止されてるんだった!
「長谷部さん…大丈夫ですか…? ごめんなさい、私何もしてあげられなくて…」
「主は何もして下さらなくていいんです」
「せめて夜伽の指示があればお手伝いできるんですが…」
「何を言ってるんですっ、今そんなものが来ては困りますよ…。貴女に何をするか分からないっ…」
「私は別に…」
──ヒュッ
私たちの目の前を矢文が通過し、祠の柱に突き刺さった。