第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
雨の音とともに、長谷部さんの荒い呼吸も目立つようになった。
心配で顔を覗きこんでみると、熱っぽく表情を歪めているものの、自分を奮い立たせるかのように深呼吸を続けている。
「長谷部さん、すごい汗です」
具合が悪いんじゃないのかな。
私は手拭いを出して、綺麗な面で彼の額を拭おうと、背伸びをした。
長谷部さんはそれを、わざと避けた。
「……申し訳ありません、主。あまり近づかないでいただけると助かります」
「え…」
ショックを隠せず、手拭いを引っ込めるものの、引き続き体調の悪そうな長谷部さんのことが心配だった。
「すみません…私の手拭いも濡れてますものね…。でも汗をそのままにされないほうがいいですよ。濡れて風邪をひいたのかも。熱はありませんか?」
今度は手のひらを彼の額に直接あてようとすると、今度こそ、少し強い力で手を払われた。
「…主…」
「長谷部さん…?」
「…風邪ではありません。どうやら先ほどの饅頭に、厄介な効能があったようです」
「へ!?」
裾から、笹の葉に戻してあった残りの饅頭を出してよく観察してみた。
全然分からない…。
でも、丈夫な長谷部さんがこんなに熱っぽくなってしまうなんて。
「どんな効能ですか? 私にできることはありますか?」
「催淫効果があるようです。危険ですので、主は引き続き、俺にあまり近づかないで下さい」
「催淫効果…?」
「おそらく、媚薬でしょう。…主に触れたくてたまらないのですが、触れるだけでは済みそうにありません」
「へっ?」