第2章 ◆耳元で愛を ★★☆☆☆
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通達を見て、長谷部は真っ先に、自分が落胆していることに気付いた。
(これは…今夜はこれしかしてはいけない、ということか…)
まったく予想していなかった。
頭の中では、最初に彼女を落ち着かせるために優しく抱き締めて、『大丈夫ですよ』と何度も囁き、自分に身を預けてくれたところを見計らって、口付けをする予定だった。
そして段々と、彼女の反応を見ながら、許してくれるところまで触れる。そう期待していた。それ以上はもしかしたら主が痛がればできないだろうと不確定ではあったが、そこまではできるはずだった。
しかし、通達によれば、抱き締めることも口付けをすることも許されていない。
(主と口付けをしてみたかった…。今夜、できると思っていたのに…)
彼女の唇に目を落とし、そしてそれに触れることはできないのだと分かると、もどかしくなった。
「長谷部さん」
「は、はい」
「ごめんなさい、嫌ですよね、耳なんて…」
主は恥ずかしそうに両手で耳を抑え、長谷部を見ていた。
彼女のそんな仕草はもちろん見たことがなく、胸が高鳴った。
(主…なんて可愛らしい…)
こんなに可愛らしい彼女に今夜は口付けできなくとも、耳には触れられる。
長谷部はここでやっと、通達どおりに耳を愛撫する想像をした。
…それは、実際彼女を目の前にすると、なんとも刺激的だった。もしかしたら自分の想像よりはるかに刺激的な行為かもしれない。
「耳の愛撫というのは、私はよく分からないのですが…長谷部さんは分かりますか…?」
「おそらく主が心地良くなるように、耳に触れるということでしょうが…もしかしたら、不快に思われることもあるかと…」
彼女はゆるく結っていた髪の耳元をすっきりと耳にかけ、真っ赤になりながら、それを長谷部に見せた。
「長谷部さん、すみません、どんなものか、やってみていただいても…」
「は、はいっ」
長谷部はゴクリと唾を飲んだあとで、彼女ときちんと向き合い、肩に手を置いた。