第2章 ◆耳元で愛を ★★☆☆☆
「…主、布団を敷いて下さっていたんですね…」
「えっ、あ……」
この時間には、いつも私が寝るための一組の布団をしいている。
恥ずかしくて、別に今夜のためじゃないんです、と言おうと思ったけど、でも今夜はこの布団を二人で使うことになるのは間違いなかった。
「…すみません、私、どうしたらいいか分からなくて…」
私ばかり舞い上がって、恥ずかしい…。
「主…」
「長谷部さん…」
長谷部さんは、布団ではなく、私の向かいに正座をした。
すると、障子の向こうからはこんのすけさんの声がした。
『主さま。通達が届きました』
「あ、ありがとう、こんのすけさん…」
ついに届いたのだ。
閉められた障子の隙間から差し込まれた通達の紙を、私はそっと受け取り、長谷部さんのそばに寄って広げた。
二人で書かれている内容を覗き見た。
「…主、これは」
書かれていた内容はこれだけ。
『一夜目、互いの耳のみを愛撫せよ』
耳…?
私はつい、自分の耳を触っていた。
ここを、愛撫…? 互いに…?
それに、『一夜目』ってことは、今日は耳の愛撫だけで、これから何日かかけてその先の手順が通達されるということだろうか。
てっきり、今夜最後までするのかと思っていたのだけれど…。
それにしても、耳って…。
「ど、どういうことなんでしょうか、長谷部さん…」
「俺にも、書いてあるとおりのことしか…」
それでも分かるのは、今日は、愛撫しかしないということ。私はそのことに少し安堵していた。
長谷部さんと体を繋げるなんて、いくらなんでもいきなりすぎたし…。
彼も困っていただろうし、かえって良かったのかも。