第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
雨が強くなってきた。
「……。」
「……。」
とても大切な約束をした気がする。
その証拠に、隣にいる長谷部さんも緊張が解けない様子で黙ったままだ。
何か緊張をほぐすものはないかな。
楽しいこととか、面白いこと…。あ、そうだ!
「長谷部さん! お饅頭を食べませんか?」
「え?」
「ほら、さっき審神者さんに薬味饅頭というものをもらったじゃないですか」
袖から笹の包みを出してみせた。
長谷部さんは少し眉を寄せたけど、すぐにそれは優しい表情へと戻った。
「…お疲れでしょうから、主が食べてください。しかし、一度見知っただけの男から貰ったものでは不安がありますので、俺が毒味しましょう」
半分こして一緒に食べるつもりだったのに、長谷部さんはそう言ってひと欠片を千切ると、慎重に口へと運んだ。
しばらく噛んで、飲み込んだ後、彼は顔を歪ませる。
「美味しくないですか…?」
「……主。食べないほうがいいです。毒ではないようですが…少し味がおかしい。何か入っていますね」
「ええ!? 長谷部さん、大丈夫ですか!?」
「鍛練を積んでおりますから。この程度の微々たる異物は問題ありません」
体調は問題なさそうでとりあえず安心した。
でも、本当にあの審神者さんがなにか混入させたってこと…?
それとも、この『薬味饅頭』ってたしか…
「長谷部さん。そのお饅頭には食べてからしか分からない効能があるとのことでしたが、何か分かりましたか?」
「いえ…特に変化はありませんが」
「本当ですか? もう、あの審神者さん、嘘ついたのかなぁ…」
「……強いて言うなら少し熱くなり、動悸がしている気もしますが…大したことはありません」
言われてみれば、長谷部さんは少し汗をかいている。
顔も赤くなっている気がするし、心配だなぁ…。