第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
長谷部さんを見ると、熱い視線をこちらへ向けている。
でも甘く優しい表情ではなくて、強く凛々しい顔をしていた。
「……俺が冷静に見えたなら、良かったです」
「え…?」
なんだろう、長谷部さん、いつもとちょっと違う…。
「あのように唐突に指示が出るようになり、俺は常に冷静でいようと思いました。貴女に触れるときは、欲望に飲まれてはならない、と」
「…長谷部さん…?」
「たとえ主が望んで下さるのだとしても、衝動に流されるべきではないと思っています」
……え…これって、やんわりと断られてる…?
やっぱりはしたないって思われちゃったのかな…。
やだ…どうしよう…。
「あのっ……」
「主。俺は…指示に従い貴女に触れるたび、自分が卑怯だと感じます。それでも、貴女に対して軽い気持ちではいたくない。貴女のことを、一時の欲をぶつける相手のようには決して扱いたくないのです」
「…長谷部さん…?」
どういう意味……?
「しかし俺は何度も衝動的になりました。許されないと思っていますし、本心を隠したまま貴女に欲をぶつけたことは、取り返しがつかないと思っています。……ですから、いつか必ずお話しします。主。貴女に伝えたいことがあるんです。今はお話できませんが、いつか必ず。…そのときは、聞いていただけますか」
長谷部さんの言葉の意味はよく分からなかったけど、彼の真剣な眼差しから目が離せなかった。
長谷部さんの、伝えたいこと…?
どんなことか検討もつかないけど、こんなに情熱的な瞳をするほどだから、とても大切なことなのだと思う。
「…はい。待っています」
すぐにでも知りたいと思う気持ちを抑えて、私は頷いた。