第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
雨の音以外は、とても静かだった。
長谷部さんはしばらく何も喋らなかったけど、私も黙って、雨の音を聞いていた。
心地いい沈黙が続いた後、長谷部さんが先に口を開いた。
「……先ほどの万屋でのこと、申し訳ありませんでした」
え……?
「何のことですか?」
「あんな場所で主を脱がせて、無理やり…」
消え入るような声でされた謝罪には、まったく身に覚えがない。
だってあの状況じゃ仕方のないことだし、長谷部さんはすごく優しくしてくれて、全然無理やりなんかじゃなかったのに…。
「長谷部さんは何も悪くないですっ」
「しかし…」
「あのとき、私…本当はすごくドキドキしてたんです。全然嫌じゃありませんでした」
「……えっ」
もう、こうなったら全部白状してしまおう。
人がいる場所で長谷部さんにあんなことされて、本当は………
「本当は……もっとしてほしかったです」
言っちゃった……!
うすうす勘づいてたけど、私はすごくはしたない女だと思う。人に見られてもいいと思ってしまったり、いつもと違う状況に興奮してしまったり。
長谷部さんに幻滅されちゃうかも…。
「…主…」
「変ですよね…。外だとすごく敏感になって…あんな状況でも感じるなんて…。長谷部さんは冷静だったのに、私ったら本当にはしたないことばかり考えていたんです…」
まるで釈罪のように、正直に話した。
もしかしたら長谷部さんは引いてしまうかもしれない、そう思ったけど、隠しておくのが苦しくて…。
お願い、長谷部さん…何か言ってください…。
「………主」
「はいっ」