第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
しばらくして、大通りを抜けて田舎道へ入ったころ、雨が降ってきた。
小雨は数秒で大降りに変わり、私たちは走る速度を緩める。
本丸にはまだ距離があるし、この雨の中を走って戻ったらびしょ濡れだ。
「主、あちらで凌いでいきましょう。歩けますか?」
「はい」
長谷部さんは道端に建てられている祠(ほこら)を指差し、手をとってそこへ連れていってくれた。
祠は大人が二人やっと雨宿りできるくらいの簡素な建物で、小さい神社みたいな場所だ。
「長谷部さん。お地蔵さまがいらっしゃいますね」
「…ええ。大目に見てもらえるでしょう」
中には一体のお地蔵さまが祀られている。
ここで雨宿りをするのはバチ当たりかもしれないけど、このお地蔵さまは「いいですよ」と言ってくれているような優しい笑顔をしていた。
目の前の道は人通りはない。
しばらくは私と長谷部さん、そしてお地蔵さまと三人で雨宿りだ。
「申し訳ありません、主。上着をお貸ししたいのですが、生憎濡れておりまして…。寒くありませんか?」
「大丈夫です。長谷部さんは?」
「問題ありません。早く止むといいのですが…」
「そうですね…」
長谷部さんは困った様子で、祠の外をうかがっている。
私は彼に色々とおまかせしたまま大人しく中で待っていたが、やがて長谷部さんも諦めたらしく隣に戻ってきた。