第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
お茶…かぁ。目的は買い物だけだし、あまり長い時間は出歩いていられない。
せっかく誘ってもらって悪いけど…
「お誘いありがとうございます。でも、今日は本丸に戻っていろいろと雑務が残っていますので、また今度にしましょう」
「そうですか。残念です」
審神者さんは最後に会釈をしてくれて、薬研さんに声をかけて帰ろうと踵を返した。
「……あ、待ってください」
私は彼の着物の裾を掴んで、思わず引き留めていた。聞きたいことがあったのだ。
「主?」
振り向いた審神者さんより先に、隣にいた長谷部さんが私に声をかけた。そこでハッと我に返る。
私も驚いた。裾を掴んでしまうなんて。
「はい。何でしょうか?」
「す、すみません。やっぱり何でもありません」
「……そうですか?」
私ったら、もう。
よく考えたら、私が聞きたいことは、仲良くない相手に聞いていいことではなかった。
今度こそ会釈をして帰っていった審神者さんを見送って、私は長谷部さんと万屋へ戻った。
「………主。先ほど、何故あの男を引き止めたのですか」
案の定、長谷部さんは怪訝な表情で私にそう尋ねた。
答えるのが恥ずかしいほど幼稚なことなんだけど…長谷部さんには嘘はつけず、正直に説明することに。
「気になってしまって…。その…男性の審神者でも、政府から夜伽の指示はあるのかどうか」
「なっ…」
「すみません! 下品ですよね、よく知らない人にそんなこと聞こうだなんて…。だから途中で思い留まったんです…」
「主っ…」
彼は少し、呆れたような声色になり、ため息をついた。
「いけませんよ。たいして知りもしない男に夜の話をするなど。しかも、あのように引き止めて…相手は気安く主を茶に誘うような男ですよ」
「すみません…。私、あの方に失礼なことをしてしまいましたよね」
「そんなことではありません! 無防備だと言っているんです!」
「長谷部さん…?」
怒ってる…?
「…行きましょう。…主は意外と、軽い男に気を許す女性なのですね」
へ……?
長谷部さんはそう言い捨てて、目当ての商品が並ぶ棚へと先に行ってしまった。