第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
「誰だ!?」
長谷部さんは刀を持って矢が飛んできた方向に構えるが、驚いたことに、障子は閉まっており、突き破られたあとがない。
しかも、飛んできた矢は煙になって消え去り、くくりつけられていた文だけが残った。
「これは一体……」
「来たようですね! 政府からの夜伽の指示です。今後は矢文にて直接知らされますので、いつどこで飛んでくるか分かりませんよ!」
「そんな…!」
こんのすけさんは楽しげに言った。
もう。他人事だと思って。
政府によっぽど誉められたんだろうなぁ。それは良かったけど…。
それに、指示はもう今から?
昨夜、あんなにすごいことをしたばっかりなのに。
「長谷部さん…とりあえず、見てみましょうか」
「…はい」
お願いすると、長谷部さんは結ばれた文をほどき、折り目を開いていった。
私もドキドキしながらそれを覗きこむ。
そこには短く『口づけをせよ』とだけ書かれていた。
「……あまりにも雑すぎるだろう。一体政府は何を考えているんだ」
口づけは慣れつつあるせいか、私も長谷部さんも動揺はしなかった。
でも、思惑の分からない政府の指示に、不信感は募っていく。
「要領は分かりましたでしょうか。それではお二人とも、口づけを済ませてから本日のご予定を開始して下さいね! 失礼いたします!」
「ああ、こんのすけさん…」
引き留める間もなく、こんのすけさんは去ってしまった。
残された私たちは、文を持ったまましばらく沈黙する。
「……政府には困ったものです。主に無理難題ばかりを押し付けるのですから」
長谷部さんが先にそう言った。
「仕方ないですよ。霊力の強化に必要なのでしょうから。長谷部さんも…今度はいつ指示があるか分からないだなんて、困ってしまいますよね」
「……いえ、俺はかまいません。いつも対処できるよう、心得ておきます」
お互いに励まし合いつつも、手元の文を見やる。
「…あの、主。とりあえず…」
「そ、そうですね、口づけをしないと」
二人して、ぎこちなく膝で近くへ寄った。
長谷部さんは私の頬に触れて、顎の高さを少し調整する。
今までと違う、これはこれで変な緊張感があった。
口づけは慣れてきたのに、こんなに急に指示されると…。
目を閉じて待っていると、すぐに唇に柔らかい感触が触れた。
「ん……」