第8章 ◆媚薬の誘い ★★★☆☆
「……長谷部さんは、一晩中ここにいて下さったんですか?」
恥ずかしい気持ちもあるが、彼に迷惑をかけたことも間違いない。
私は布団を下げて、改めて尋ねた。
「ええ。着替えるために一度自室に戻りましたが、それからはここで。体調を崩されないか心配でしたので…」
「そうですか…。ありがとうございます。すみませんでした」
「いえ。近侍として当然のことです」
ここで一晩中寝顔をさらしていたのかと思うとそれも居たたまれないが、もうそういうことは忘れることにした。
──「主さま!」
そのとき、こんのすけさんがころんと中へ入ってきて、私たちの間におすわりした。
「こんのすけさん。どうしましたか?」
「主に何か用か」
こんのすけさんがわざわざこうしてやってくるときは、いつも嫌な予感がする。
「お二人ともお揃いですね。ちょうど良かったです。夜伽についてお知らせがございます」
私は長谷部さんと顔を見合わせた。
何か失敗したかと思ったが、特に思い当たることはない。言われたとおりにしてきたはず。
「お知らせって、何でしょうか…?」
「なんとお二人の夜伽の進捗が大変順調であると政府より評価されております! 他の本丸ではやり直しや近侍の交換、主の指令放棄などもあり、なかなか進まないことが多いようですよ」
「当たり前だ。主は誰よりも真面目に取り組まれている。他の本丸と同じにするな」
「そんなことないです。私はお相手が長谷部さんだったから…運が良かったんです」
「主…」
「…えーと、話を進めてもよろしいですか? それで政府より夜伽についてルールの改定がございました。今までは二日に一度の指示でしたが、今後は不定期となります。いつ指示が出るか分かりませんのでご注意下さい」
「えぇ!?」
「なっ」
不定期って……
今までは心の準備ができたから落ち着いていられたけど…いつ指示があるか分からないって、例えばどういうとき…?
──ヒュッ
「きゃっ!?」
「主!!」
すると、突然矢文が飛んできて、部屋の畳に突き刺さった。