第1章 ◆夜伽の通達 ★☆☆☆☆
「私、正直、どうすべきかわからないのですが…これは政府からの通達ですから、従うしかありません。……もし、長谷部さんが嫌でなければ、と言いましたが……私は……」
ゴクリ
「…私は、たぶん、こんなこと、長谷部さんとしかできないかもしれませんっ…」
(え…?)
「ですから、その…ご協力、いただけますか…?……これは主命…です」
彼女の言葉に全身に血が廻っていく。
涙目の上目遣いで見つめられていることもそうだが、その口から次々と出てくる魔性の言葉の数々に、長谷部はくらりと倒れてしまいそうなほど、たまらなくなった。
「…も、もちろんです、主…」
詳細な手順は追って指示すると書いてあったが、長谷部はこのときすでに、頭の中でその手順を考え始めていた。
「…このことは、こんのすけさんと長谷部さんしか知りません。本丸の混乱を避けるために、誰にも言わないでおこうと思っています」
「はい。畏まりました」
「…とにかく、今夜の通達を待ちましょう。長谷部さん…ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって…」
「そんな! 主は何も悪くありません…!」
「あ、あの……長谷部さん。それと私…実はお恥ずかしながら、このようなことには縁がなくて…今のうちに白状しますが、長谷部さんが初めてなんです。きっとご迷惑をかけてしまうと思いますが、頑張りますので…色々と、教えていただければと思います」
「は……はい……」
「…じゃあ、また今夜、来てくださいね…」
(……ああ、ダメだ……夜まで待てるのだろうか、俺は……)
部屋を出ると、トロンと据わりきった目に変わっていく長谷部。
彼女は経験がなく、初めて。そんな舞い上がりそうな情報に、しかもそれを今夜自分がもらうことになるという事実。
『色々と教えて』というのは、何を、どこまで。一体彼女にどこまでしていい……?
すでに色々と妄想するが、しかし、まずは今夜。
彼女に誠心誠意尽くさなければ。
初めてだという彼女に、気持ちを込めて、できるかぎり優しく、少しでも、相手が自分で良かったと思ってもらえるように。
そんなことを考えながら、長谷部は夜を待つのだった。