第5章 旅立ち
「そうですか...」
安室はそう言って微笑んだ。
「さんには、もうそんな人がいるんですね」
「...」
「会ってみたいですね、その人に」
先程の探るような視線から一転して、儚ささえ感じられるその表情に、は言葉に詰まった
。
なぜそんな顔をするのだ、彼と、安室透とは、そこまで面識があるわけではないのに。
そう、思う心とは裏腹に、は、彼は昔会った兄の知り合いではないかとも思っていた。確かにその性格は正反対だ。しかし、その本質は変わらないとも思う。そうであるならば。の脳裏にある光景が浮かんだ。彼は今、あの事についてどのように考えているのだろうか。
「さん?」
安室の声では我に返った。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい...」
心ここに在らず、といったを見て安室は言った。
「すみません、困らせてしまいましたね。今のは忘れてください」
「はぁ...」