第7章 笑顔
「一口よこせ」
若頭にそういわれると、しばし逡巡したあと、おずおずと両手で差し出した。トマトを差し出す奏の表情を見ながら、ほんのり頬が熱を増し、それをごまかすように一口齧った。確かに、普通のトマトよりも甘みが強い。
「さて、そろそろ、飯の時間だ。帰るぞ」
「はい」
今日は、連れてきて良かった。買ったトマトの袋を渡すと、今まで見たことが無い、奏の心からの笑みを浮かべた。おそらく、自分でも気づいていないのだろう。ようやく見れた笑顔。それだけで、気分が高揚するとは、思っていなかった。
「若頭……トマト、ありがとうございます……」
「奏?」
「私は……若頭に頂いてばかりです。学校にも通わせていただいて。若頭のそばに置いていただけて、幸せです。何か、おかえしを、したいです。若頭の為に、何でもしたいです」
信也は、奏を抱き寄せ、耳元に息を吹きかけた。途端に、腕の中の体がビクッと跳ねる。その反応が、愛おしい。出会った時から、惹かれていた。だから、手に入れた。そばに置いた。守れるように。誰も触れないように。自分の近くに繋ぎ止めた。ここ数ヶ月、組内でも、奏を狙う男は多く、密かに排除してきた。
すぐさま、いつものクラウンではなく、センチュリーを呼びつけた。行き先を告げると、奏を車に乗せ、配下にスマホを渡し、車内へ入る。