第7章 笑顔
街に着くと、人々が道を開け、八百屋や魚屋、バーの店主等が、声をかけてきた。採れたての野菜。新鮮な海の幸。何百万もする高級ワイン。道行く人が若頭に誘い文句を言い、若頭もそれに丁寧に応える。葛城組は、定期的に街を見回っており、治安を守っている。創設者である先祖が、新撰組に身を寄せていた名残で、新撰組のやってきた事を、その志を、今に残している。若頭は、奏にそう語って聞かせた。実際、街の住民は、邪魔になるから道をあけるのであって、怖がったりはしていない。若頭も人々の誘いに笑顔で応えている。
「はい! これ、採れたてのトマトだよ。あなたも一つどうぞ」
「え……私は、何もしてないですから……受け取れません……」
「若頭が、あんたはよく頑張ってる、て言ってたからね。これは、あんたが頑張った褒美だよ。……トマト嫌いだったかい?」
「っ! いえ! トマト……だい、すき……です」
農家と思われる気立てのいい叔母さんから、トマトを受け取る。
そうだった。忘れてたけど、私、トマトが好きだったんだ……。
思わず、その場で一口食べてしまった。
「おばさま、トマトすっごくおいしいっ!! 甘くて、でも、ほんのりすっぱくて、でも、甘くて、冷たくて……皮もすごく柔らかい……! 私、これが食べれて、幸せだよっ!」
「おおげさだねぇ。でも、そんなに喜んでくれ」
「おい! 文江さん!」
慌てた若頭の声に二人は驚いた。
「そのトマト、あるだけ全部買うっ!」
「若頭も大変ねぇ……すぐ用意するよ」
「感謝する」
その間も、奏は両手で大事そうに包みながら、トマトをゆっくりと食べていた。