第5章 不良
シャワーの音がする……。暖かくて、硬くて、広い感触。私はこの感覚を覚えてる。知ってる。ずっと欲しかった。欲しくて、欲しくて、でも、願えなくて。我慢していて。夢の中で何度も、何度も、その腕の中に抱かれて。
ああ……夢か。
優しく体を撫でられ、泡でもこもこして気持ちいい。赤ちゃんの頃、体を洗ってもらう時って、こんなに気持ち良かったんだ……。なんか、夢にしては、リアルだなぁ……。夢なら、甘えてもいいよね。
「信也……きもちいいよ……」
「っ!! おき、た……のか……?」
「おっかしいのー。夢の中で、起きたって言われても、夢の中だよー?」
おかしくて、嬉しくて、ニヤニヤが止まらない。
「んー……信也……髪もあらってぇ?」
「じゃあ、ちょっと離れるぞ?」
「ん、それは駄目」
離れようとする感触が恋しくて、ぴったり寄り添う。
「離れないと、洗えない……」
「やーだー! 夢の中くらい、くっついたっていいじゃん! ずっと、ずーっと欲しかったんだもーん」
盛大なため息が聞こえた。
「じゃあ、ちょっと寝てろよ。洗ってやるから」
「んー……わかったぁ」
私は再び目を閉じる。愛おしい感触に包まれながら眠るのは幸せだ。
起きたら、傍にいてくれるだろうか? 素直になってもいいのだろうか? わからないけど、起きたら、伝えよう。