第1章 躾
「は……?」
「は? ではありません。人に物を頼む態度がそれなのか、と聞いているのです」
「あ、えっと……お願い……」
盛大な溜息をついた葛城は、上着をゆっくりと脱ぎ、イスの背もたれにかける。
いつもの葛城と違う雰囲気にゆっくり後ずさっていく。
が、ベッドに足を引っ掛けてしまい、倒れそうになる。
素早く葛城が手首を掴み、倒れるのは阻止された。
「あ、りがとう……葛城、きゃっ!」
手首を掴まれたまま奏はベッドへと押し倒された。
すぐ起き上がろうとするが、葛城が馬乗りになり出来ない。
両手を頭上に持っていかれ左手で固定される。
すかさず右手でネクタイをほどき奏の両手を縛った。
胸ポケットからハンカチを取り出し、奏に咥えさせる。
「んっ……ん……ん」
足をばたつかせるが、葛城の足が絡まり出来ない。
自分の上に乗る葛城を信じられないという目で見上げる。
確かに嫌味が多かった葛城だが、こんな事は今までしなかった。
前髪をかきあげ眼鏡を外す。
今まできちんと見たこともなかった葛城の整った顔。
楽しそうに笑みを浮かべた葛城。
頭の下に腕を回し、奏の頭を持ち上げる。
「さて、奏お嬢様。優しい躾と厳しい躾。どちらがお好みですか?」