第1章 躾
机の上にサンドウィッチが置かれた。
驚いて後ろを振り向く。
「……葛城っ……!?」
「何ですか? お嬢様」
「な、なんでじゃなくて……へ、部屋……鍵……」
「お忘れですか? 私は旦那様からマスターキーを」
笑顔で燕尾服の裏ポケットからマスターキーを取り出す。
「ち、ちが……だ、だれもいれるなって……!」
「はい。誰も入れていません。私は入らせて頂いたのです。入るな、とは言われておりませんので」
「そ、それは屁理屈……!」
「何がですか? お嬢様。自分で言った言葉の意味をご理解なさっておられないのですか?」
「理解してます! ノックせずに入るのは失礼ではありませんか!?」
「ご存じありませんか? 執事はあらゆる部屋にノック無しでの入室が許可されております」
「……」
口をパクパクさせ反論を探す。
その間に葛城は紅茶を淹れ机に置く。
そして、それに気付いた。
「お嬢様。赤点でございますか?」
「ひぃっ!!」
慌てて隠すが時既に遅し。
葛城の取り繕ったような笑みがやけに恐ろしく見える。
「葛城! この事は内密に!!」
手を合わせて懇願する。
だが、予想していた答えとは違う物が返ってきた。
「お嬢様、人にものを頼むときは何を言うのか……ご存じありませんか?」