第4章 ポーカー
私は、昼は主任の秘書を。夜はカジノの店員を。
主任は、昼は主任。夜は、毎日、そう、毎日毎日カジノへ来ていた。
それでも、何も言ってこないのは何故だろうか? 確実に私だとバレているだろうし、弱小企業とはいえ、副業禁止の職場だ。私の弱みを握ったも同然。煮るなり焼くなり、好きにし放題だ。私が何か言うまで黙っているつもりなのだろうか? いや、それもどうだろう……。何か裏がありそうで、何か、嫌だな。
「ところで……」
「はい?」
「お酒は……飲むの?」
「いえ、飲まないですよ。私、下戸なので」
「へぇ……」
突然何だろう? 主任とはいつも、仕事の話か、カジノでの最小限のやり取りしかしないのに。私に気があるとか? いやいやいや、自意識過剰にも程がある。
「付き合ってくれないかな?」
「ふぇえっ!?」
思わず持っていた資料やら大事な書類関係を床にばら撒いた。
「桐生さんでも、そんな声出せるんだね。いつも、クールで冷静で、頼れるお姉さんキャラで、結構、強気なタイプだと思ってたんだけど……」
「……少し、驚いただけです。それで、何に付き合えばいいんですか? 先程申し上げた通り、お酒は飲めませんよ?」
床に落ちた書類を一つ一つ丁寧に拾いながら、整理する。こんなに慌てたのは、いつ以来だったか……。心臓に悪い。
「カジノ」
目眩がした。
「……お断りします。行った事無いですし……」
「客としては行った事無いんだ? 流石に」
はぁ……。やっぱり。そろそろ何か言ってくる気はしていた。