第2章 罠
――葛城信也 サイド――
携帯が何かを受信した様な音を発した。
まさかと思ってみてみれば、主人からの非常時発信だ。
何かあった時用に作られていた非常時発信。
コールがなくても、発信しただけでその位置情報が送られてくる物。
天才プログラマーと言われる奏の母親が作り出したのだ。
それが始めて使われた。
その意味を瞬時に理解した信也は、屋敷の掃除を他の者に任せ、自分の車へ向かう。
マスコミや会社関係者、その他大勢の業界関係者等にバレないように非常時はこれで向かう様あらかじめ奏の父に頂いた物だ。
レクサスLS600hのブラック。約1700万円の車だ。
出せる限りの速度と、裏道を使い学校へと向かう。
携帯は学校の屋上から動いていない。
嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
この時間は本来なら食事中だ。
ハンドルを握る力が強くなる。
学校に着いたのは非常時発信を受けてから15分後の事だった。
携帯はまだ屋上にある。
屋上には、人影が2つあった。
「奏お嬢様!!!」
とにかく急いだ。
幸い昼食中の為、階段や廊下で生徒や教師とすれ違わない。
だが、屋上から降りてくる人物が一人居た。
八重川玲人。
大手玩具会社社長子息。
奏を始めた犯した時に使った玩具が彼の会社の製品だ。
奏が気になるが、執事として、礼儀だけはしなければならない。
右手を腰にあて頭を下げる。
「あんた、結構いい趣味してんな。あいつ結構良かったぜ。意識ないのに俺のを美味そうに咥えこんでたぜ」
「そうですか」
平静を装おうが、内心は穏やかではない。
「まあ、俺も楽しかったから今朝のは何もなかった事にしといてやるよ」
「ありがとうございます」