第2章 罠
授業など全く手につかず午前を終えた。
気付けば慌ててノートを取り、の繰り返し。
昼休みになっても食欲が湧かないので誰も居なさそうな屋上へと向かった。
フェンスにもたれて空を見上げる。
澄み切った青空。心地よい風。
紅茶が飲みたい。信也の淹れた香り豊かな紅茶を。
「何してんの?」
「考え事……です」
知らない男性の声。
「へぇ、ゲーム会社のご令嬢が屋上で……ねぇ」
「いけませんか?」
視線を空から男性へと向ける。
身長は信也より高くスラっとした体型。少し猫背だ。
誰かと思えばクラスメイトだった。
大手玩具会社の子息。
「八重川玲人様。ごきげんよう」
外用の仮面を付けて笑いかける。
人付き合いが苦手なので基本的には人を近寄らせたくない。
それに、素顔を見られるのは信也だけでいい。そうも思った。
「なぁ……聞いていいか?」
ゆっくり歩み寄ってくる玲人。
奏はそれにともないゆっくりと屋上の奥へ奥へ、と逃げる。
そして、肩がフェンスに当たった。
コーナーに追いやられていた事に今更気付く。
逃げ場がない。
信也を呼ぼうと携帯を取り出し電話をかける。
だが、玲人に携帯を盗られ切られた。
ガシャン、と音がして体がこわばる。
玲人が奏の逃げ道を塞ぐように奏の左右に腕を伸ばしフェンスを掴んだ。