第11章 出会いと思い
「Shall We Dance?」
白い手袋と黒いタキシードを着た男性が、私へと、手を差し伸べてくれていた。
「あ……えっと……」
なんて返せばいいのか忘れたっ!
「私と一曲いかがですか? お嬢様」
「っ! は、い……よろしくお願いします」
とりあえず、ドレスの裾を両手で軽く摘み上げ、一礼し、彼の手を取った。もう、やるしかない。どうせ、逃げられないのだから。
「私に合わせて頂くだけで、構いません。いくら踏んで頂いても、ご両親には恥をかかせませんから、力を抜いて」
「……はい……」
そして、一曲踊ることとなった。
結論から言うと、私は本当に何もしていない。ただ、彼の言うとおりに動き、動かされた。おかげで、誰かに笑われる事も、転ぶことも、足を踏んでしまう事も無く、両親は満足そうに褒めてくれた。
遠い日の、思い出。私と、彼の出会い。