第11章 出会いと思い
当日。
父に用意してもらったドレスを、メイドの手を借り、何とか着た。今回は”ホワイトタイ”と呼ばれるドレスコード指定の舞踏会。今更だが、日本で舞踏会が行われるとは思ってもいなかった。ドイツ語でBallrobe(バルローベ)、英語ではBall Gown(ボールガウン)と呼ばれる、舞踏会専用の大きなシルエットのクリーム色のロングドレスが用意されていた。裾がふんわりと広がったボリュームのあるシルクのドレスで、ピンクの薔薇の柄が入っており、床まで届くフルレンクスのもの。表面にはパールが添えられており、右腰に、レース素材の大きなリボンがついている。バストからウェストにかけてはぴったりと身に沿うタイトなライン。スカート部分はチュールのペチコートでたっぷりと膨らんでいる。正直、可愛い。これを着れただけで、割と満足している自分が居る。自分でも言うのも悲しいけれど、馬子にも衣装だ。
今回行くのは、サロン型の舞踏会。ルネサンス時代の貴族邸宅をモチーフにしたホテルの一室。
舞踏会の幕開けとなるのは、純白のドレスに身を包んだ”デビュタント”と呼ばれる、新成人となる女性たちと、ペアの男性によるダンス。これは、新成人が社交界にデビューを果たすという意味があるらしい。私は、これには参加していない。舞踏会で白のドレスを着られるのは、新成人の女性たちの特権。故に、私は白のドレスを着ていないのだ。デビュタント達のダンスの後は、プロのダンサーによるさまざまなダンスが披露される。
それを、部屋の隅のほうで見学をしつつ、赤いぶどうジュースを飲む。赤ワインの代わりに出されている物を、父からもらった。そんな父は、主催者やお世話になっている方々にご挨拶をしている。私は、時々、手招きされた際に、挨拶へと向かう。それ以外は、ただ、のんびりと過ごしていた。
何とか初歩的なダンスは覚えてきたものの、相手の足を踏んでしまうのではないか、と恐怖しかない。プロダンサーによるダンスが終了し、ホールが開け放たれた瞬間、舞踏会の本番が始まってしまう。
参加者が我先にとホールへなだれ込み、人の波には逆らえず、ホールへと流された。生演奏が始まり、各々がパートナーを決め、ワルツを踊り始める。ダンスの力量も人それぞれで、プロ顔負けのスピードで踊る若い男女もいれば、ゆっくりと自分のペースで楽しむ老夫婦もいた。
そんな時だった。