第11章 出会いと思い
「舞踏会……ですか……?」
「ああ。お前も是非、と言われてね。出席してくれないか?」
雪が解け始める頃。高校への進学準備も粗方落ち着いてきた時、父に呼ばれ、父の部屋へと向かった。そして、舞踏会に出ろ、と言われてしまったのだ。父の仕事を邪魔する訳にも、足枷になるわけにもいかず、内心穏やかではなかったが、笑顔で承諾する。
大手ゲーム会社の社長を務める父と、天才プログラマーと言われる母の間に産まれた私。両親の恥にはならないよう、最善を尽くせる努力をしているつもりだ。立ち振る舞い、身だしなみ、礼儀作法。両親がやらなくていい、と言ってくれた事でも自分からやった。だから、舞踏会の誘いを断るという選択肢なんか無い。無いけれど。
「……ダンスとか……苦手……なんだけど……」
学力は何とかしてきたつもりだが、体力や運動は、どう頑張っても成長しない。よく転ぶし、ジャンプして着地をしたら足を挫くし、ボールは顔面で受け取るし、足も速くない。柔軟だけは、何とか出来るレベルまでにはなったが、とてもじゃないが、踊れるような運動神経は持っていない。両親に頼んで稽古をしてもらう訳にもいかない。でも、両親に恥はかかせたくない。
「前途多難……ってやつかなぁ」
通路で深いため息をしつつ、自分の部屋へと戻る。本棚からありったけのダンスに関する書物を引っ張り出し、自室の奥にある作業部屋へと向かう。
八つのモニターと二台のデスクトップパソコンに囲まれたパソコンデスクが目の前に現れる。向かって左側に、世に出された全てのゲーム機が置かれたゲーム用デスク。右側には、両親の仕事を手伝う時に使う、仕事用デスクがある十六畳の部屋。仕事用デスクの上に書物を置き、パソコンの電源を入れ、モニターを全て点ける。
期限は一週間。それまでに、ダンスを覚え、実践出来るレベルにまではしなければならない。ゲーム的に言うならば、踊り子レベル一からレベル百まであげる。自分だけの力で。今までと同じように、そして、これからも。
まずは動画サイトでそれらしい物を検索し、それらしきものを全て別窓表示させ、一つずつモニターに配置する。そして、書物で知識と基礎を脳に叩き込む。ダンスは社交におそらく必要な物。覚えておいて損はない……ハズ。そう、自分に言い聞かせ、運動神経の劣等感を忘れさせる。