第10章 雨上がり
「俺に出来ること無いですか?」
「んー……そうだなぁ……葛城君、彼女いたっけ?」
「いないですよ。好きな人なら、いますけど」
「じゃあ、頼めないや……」
「何を、してほしいんです? 教えてください」
左手に葛城の手が重ねられた。
いっその事、言ってしまおうか。酔いに身を任せて。全て、酔いのせいにして。
「私を汚して」
いつも思っていた。忘れられないなら、上書きしてしまえ、と。誰と? 誰でもいいから。思い出せないくらい。恋する綺麗な私なんかいらないから。忘れられない思い。忘れられない過去。外せない指輪。もう、いっそ、壊して欲しい。蝕まれたい。卑怯な私。こうでもしないと壊れてしまう私。弱い私。醜い私。こうでもしないと、自分すら、消えてしまいそうで。どうせ消えてしまうなら、引き裂かれたい。
また、誰かに、愛されたい。思い切り、汚されたい。
グラスの氷が音を立てた。
「……なんて、ね……そろそろ、帰るわ」
巻き込んでは、駄目だ。
「送りますよ」
「一人で帰れ……る」
足元がおぼつかない。飲みすぎたかな。ほんと、情けない。支えられながら、私達はバーを出た。このまま本当に家まで送られるのかな、と思って、されるがままになっていたら、気付いたら、何故か。