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【短編集】ブーゲンビリア【R18】

第10章 雨上がり



「終わった。葛城君、そっちはどう?」
「ん、もう少しです」
「じゃあ、半分もらってくわよ」

 葛城が持っていった書類を、再度自分の方へ戻し、パソコンに向きなおす。その姿を見ていた葛城の目が、愛おしい物を見つめる優しい眼差しになった。
 そうして、二人で残業を終え、後片付けをする。最後に、電気を消し、会社を出た。
 葛城がタクシーを呼び、二人で乗り込む。葛城は行き先を告げると、奏の頭をポンポンと撫でた。それが心地よくて、反抗する気も起きず、されるがまま大人しくしていた。
 目的地へ到着し、店内へと入る。そこは、地下にあるバーで、ジャズが流れており、そこそこ賑わっていた。ここは、葛城が新人の頃、一度だけ連れてきたバーだ。
 葛城がバーボン・ウイスキーのロック。奏は、カシスソーダを注文した。始めて来た時と、同じ注文。
 そうして、飲み始める事、数分。

「聞いてよぉおっ! 八年よ! は・ち・ね・んっ!」

 奏は一杯で酔っていた。葛城は、こうなる事が分かっていて、連れてきた。こうすれば、何でも話し始めるのだ。酒にものすごく弱い自覚の無い奏。

「八年付き合ってたの。同棲までして、そろそろ結婚してもいいんじゃないか、て思ってたのに、別れよ、て言われた。それが一週間前。それから、彼の荷物とかも消えててさ、笑っちゃうよね。ほんと、信じられない。婚約指輪ももらってたのに……」
「外さないんですか?」
「外せなくてさ。まだ、信じたくないみたい」

 婚約指輪を見つめながら、思いを馳せた。
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