第9章 独占欲
「いつも来ていただいて、ありがとうございます。桐生先生」
「構いません。お気になさらず。私が、好きでやっていることですので」
不登校になっている子の家に出向き、生徒に会う会わないは別として、体調に変化が無いかだけでも知る。言葉が交わせたら交わす。それだけでも、救われる子はいるはずだ。かつての私がそうであったように。
それだけが、私がしてあげれる唯一の事なのだから。
「信也君、桐生です。体調はどうかな?」
部屋のドアをノックしながら声をかけると、中にいる子が扉を開けてくれた。私は、この瞬間が何より嬉しい。
「お邪魔します」
一言断りを入れてから、部屋へと入ると、扉を閉めた。部屋の主である、桐生君は、律儀にいつも私がくるタイミングに合わせて、私が好きな紅茶を淹れてくれている。その証拠に、部屋に入った途端、紅茶のいい香りが漂ってきた。今日は、ラベンダーの香りだ。
「どうぞ、先生」
「ありがとう」
差し出されるティーカップを受け取り、机へと歩み寄る。そこには、各担当の先生からもらっている授業の内容を記したプリントが広げられていた。協力してくれている先生達には頭が上がらない。