第6章 私の初任務とあの人の存在
「ハンバーグありがとう!ご馳走様でした」
私は風見さんにお礼を言った。すると、風見さんは首を振り、
「いや、君にかけた迷惑を考えれば安いものだ。……本当にこれでいいのか?」
と本当に申し訳なさそうに私に聞く。この人、本当に面白い。私は少し考えて、携帯を取り出した。
「じゃあ、お兄さんの連絡先教えてよ」
「は?」
「お兄さん、かっこいいから」
携帯を口元に当て、恥ずかしそうに上目遣い。まぁ、見たところ風見さん子供嫌いでは無さそうだし、交換してくれるだろう。と思ったが、意外にもしばらく考える素振りを見せる風見さん。悪戯電話でもされると思っているのだろうか?
「………家まで送ろう」
私の頼みの返事はしてくれず彼は歩き始めた。私が彼の手を握ると、ビクッと体を震わせたが、私の手を払うことはせずそのまま歩き始めた。
「……君はどうしてあんな時間にいたんだ」
私の手を引きながら、風見さんはそう問いかけた。風見さんをどう誤魔化すか考えていた私は、その言葉にも困ってしまった。ふむ…今までその話題には触れないように気をつけてきたのに。だから、私は本当のことをちょぴっと混ぜて、彼に嘘をついた。
「私ね、最近新しい家族ができたの。でも、ちょっと慣れなくて……。一人の時間が欲しくなっちゃったの」
私の言葉にそうか…という風見さん。私は彼の手をぱっと離した。
「ここで大丈夫!風見さんお仕事あるでしょ? ありがとう!じゃあね!」
手を振り、走り出そうとする私の手を風見さんは掴んだ。風見さんは膝を折り、私と同じ目線に合わせた。
「………お兄さんでいい。それと、もうあんな時間に外に出るな。……不審者に出くわしたらどうする」
最後の方を気まずそうに言う風見さんに、私はクスッと笑った。風見さんは、手帳に何かを書き、それを破ると私に渡した。
「今日みたいに、1人になりたいときは電話しろ。……何かあった時でもいい。とにかく、他の誰にも頼れないことがあったら、いつでも力になる。いいな?」
ぱぁーっと私は笑顔で頷いた。そして、風見さんの首に腕を回す。ビクッと体を震わせたが、そこは無視だ。やはり、この人は面倒見がよかった。
「ありがとう!風見のお兄さん。またね!!」
風見さんの頬にキスをおとし、私は走り出した。風見さんはぼんやりと頬を触りながら、私を見送った。