第6章 私の初任務とあの人の存在
「………どうしよ…」
私は朝日の眩しさに目を細めながら、ため息をついた。公園のベンチで足をぶらぶらさせる。
「………逃げ出すの…癖になっちゃったなぁ」
そして、逃げ出したときその先はろくなことがない。戻るか…だが、ここで戻ったところで、今の気持ちが晴れるとも思えない。何より、今は誰にも会いたくなかった。
「「……はぁ…」」
ん?私は辺りを見渡した。私の他にため息をつく声がもうひとつ。その人は案外、隣のベンチに腰掛けており、恐らく何日も寝てないであろう顔を真っ青にさせてため息をついていた。
「…………おじさん、大丈夫?」
あまりにもフラフラしていたので、私は思わずそう声をかけてしまった。こんな早朝、普通だったら、私みたいな子供がいたらおかしい。怪訝な顔をされるかと思ったが、男はこちらを虚ろな目で見て、口を開いた。
「…………おれは……まだ…おじさんじゃない」
ほぼ意識がないような声で男は言った。私は少し距離を開け、同じベンチに座る。そして、
「じゃあ、お兄さん。大丈夫?」
そう聞くと、男ははぁっと息を吐いた。
「…大丈夫なわけあるか。こっちはもうろくに寝てないんだ」
「………ふーん。じゃあ、寝たら?」
「は?」
私は思いっきり男の腕を引き寄せた。男の体は思ったより力がなく、男の頭はすんなり私の膝へと落ちた。
「な……なに……を………」
「こんなので申し訳ないけど、ないよりかはマシだと思うから。何時に起こしたらいい?」
「………………5…じ………」
メガネの奥で男の虚ろな目がゆっくりと閉じられた。…………大丈夫かこの人。見たところ、スーツを着ているようだし、仕事帰りと言ったところだろう。………何の仕事に就いたらこうなるのだろう…。
「うう……すみません。もう徹夜は………」
こううなされる度に、私はポンポンっと彼の肩を叩き、まるで自分の子供のようにあやすのだった。