第6章 私の初任務とあの人の存在
夢を見た。またこれか…私はため息をついた。こんな夢を見るのは、きっとあの懐かしい匂いのせい。
「立て。誰が休んでいいと言った」
目の前にはクソ親父と、肩で息をしながら立ち上がる幼い私がいた。向かっていく私の攻撃をなんなく避け、クソ親父は私を転ばせる。その繰り返しだった。とうとう私の体力がきれ、その場に倒れ込んだ。
「立て。まだ終わりと言っていない。お前はすぐに諦める癖があるから、まずはそれを止めろ」
確か、これは………あぁ、私が生きようと決めてすぐのことか。朝、突然叩き起されて、ナイフを持たせられ、さらにはこれで自分に向かってこいと言われた時は、何を言っているんだと思ったものだ。
「これはお前が自衛するための訓練だ。さっさと立て」
そう言って、私に近づくクソ親父。そのクソ親父に私は思いっきりナイフを彼に突き立てた……が、
「………ほぉー」
やはりそれはあっさりと払い除けられ、私はくるっと一回転させられ、再び地面に倒れた。幼い私は睨む。殺してやると呟きながら。
「今のは良かった。お前は不意をつくのが上手いようだ」
だが…クソ親父は私の腕を掴み、自分の顔を近づけた。その目はぎらりと光り、私はビクッと体を震わせた。
「だが、今の言葉は聞き捨てならない。殺すなんて言葉、冗談でも使うな。いいな?」
…………今にも人を殺しそうな顔をしておいて、この人はそういうことを言うのだ。そして、私に約束させた。絶対に人を殺さないと。
「………何、律儀に守ってるんだろう」
この人は私を捨てたのにさ。捨てて、記憶の片隅にも残ってなくて………私だって顔すら出てこないのに。こんな記憶だけ…残ってる。
「………今日、私初めて死を感じたよ。意外にも呆気ないもんだね」
私はクソ親父の背に向けてそう話しかけた。返事ははなから期待していない。だってこれは私の夢だし。
「自分の足りないところも分かった。死なないための覚悟が必要だってことも分かった」
クソ親父の姿がどんどん掠れていく。夢から覚める時間が来たようだ。私は言った。
「約束、守れそうにないや。でも仕方ないよね。自分の命を守るためだもん」
あんただって、どうせ殺してるんでしょ。自分の身を守るために…自分の目的のために…。私もそうするだけだ。そして、私は目を開けた。