第6章 私の初任務とあの人の存在
~別side~
「なずな、どこか痛いところはありませんか?」
部屋に戻ると、俺は彼女に声をかけた。普段は明るい彼女だが、ずっと何かを考えているようだった。彼女は首を振ると、僕に向かって腕を大きく広げた。
「……だっこ」
思わずぽかんとしてしまった。普段、そのようなことを言わないのに…よほど疲れたのだろうか?彼女を抱き上げると、彼女は僕の首に腕を回し、ほどよい重さが肩にかかるのを感じた。背をポンポンとリズムよく叩くと、
「………バーボン。お姉さんと誰か他にあの場にいなかった?」
と彼女は聞いた。バーボン…彼女が僕のことをそう呼ぶのは久々のことだった。思わず苦笑してしまう。すっかりママ呼びに慣れてしまっていたようだ。僕は聞いた。
「………どうしたんですか?」
「きつい煙草の匂いがしたから。違った?」
脳裏にライの姿が頭を過ぎった。あいつは、いつの間にか姿を消していた。なずなが僕の服を強く掴むのが分かった。
「………いませんでしたよ。そう言えば、ベルモットが途中で煙草を吸い始めていましたね。その匂いでは?」
「……ほんと?」
「ええ。どうしてそんなにタバコの匂いが気になるんですか?」
顔を上げたなずなと目が合う。大きな瞳には、戸惑いと期待を感じられた。しばらくして、彼女は笑った。諦めたような笑みだった。
「なんでもない。ただ、きつい匂いだったから、そんなの吸ってたら肺が黒くなるよって教えてあげたかったの」
彼女は再び彼の肩に頭を置いた。……ライとこの子の繋がりはまだよく分かっていない。だが、何かあるのは確実だった。
「まま……疲れた……眠い…」
そして、彼女は深い眠りについたのだった。