第6章 私の初任務とあの人の存在
「なずな、どこか痛いところはありませんか?」
部屋に戻ると、無言だったバーボンが私に声をかけた。私は首を振り、腕を大きく広げた。
「……だっこ」
バーボンは少し戸惑いの様子を見せたが、汗まみれの私を躊躇なく抱き上げてくれた。優しい声が普段より近く聞こえる。
「あなたが我儘なんて珍しいですね。流石に疲れましたか?」
私はそれに返事せず、彼の肩に頭を預けた。そんな私の背をポンポンとリズムよくあやしてくれる。軽く息を吸うと、いつもの彼の香りと共に、きつい煙草の匂いが微かに香るのが分かった。
「………バーボン。お姉さんと誰か他にあの場にいなかった?」
「………どうしたんですか?」
「きつい煙草の匂いがしたから。違った?」
思わず手に力が入る。いた…そう答えたら、私はどうするだろう…。問いただす?会いに行く?そして、殴る?分からない。私はただ彼の答えを待った。
「………いませんでしたよ。そう言えば、ベルモットが途中で煙草を吸い始めていましたね。その匂いでは?」
「……ほんと?」
「ええ。どうしてそんなにタバコの匂いが気になるんですか?」
顔を上げると、バーボンは不思議そうにして聞いていた。……………バーボンにクソ親父を隠す理由は……ない…か。私は笑ってしまった。
「なんでもない。ただ、きつい匂いだったから、そんなの吸ってたら肺が黒くなるよって教えてあげたかったの」
私は再び彼の肩に頭を置いた。ガッカリしたのか、ホッとしたのか…。自分の気持ちはよく分からなかった。だが…
「まま……疲れた……眠い…」
今は懐かしい匂いを鼻いっぱいに吸い込み、私はその匂いに包まれながら目を閉じるのだった。