第6章 私の初任務とあの人の存在
~誰かside~
「はじめまして、ベルモットのお姉さん」
小さい体、高い声、人懐っこい可愛い笑顔…。まるで小さい道化師ね。最初にその子を見た時、私はそう思った。あのジンでさえも騙そうとするその度胸に、私は思わず笑みを浮かべてしまう。
その子は、ジンのお気に入りの雑用係の子と、手出し無用の存在となった。あのジンが睨みをきかせてるおかげで、あの子に手を出そうとする輩はおらず、また彼女もジンとウォッカ以外近寄ろうとすらしなかった。
「だって、怖かったんだもん。私なんてすぐ殺されちゃうし…」
後に彼女はそう語るが、私はそれを聞くとつい笑ってしまった。身近にいる人間の方が、随分と恐ろしいのに、と。だったら、私のところに来る?そう冗談交じりで、話を振ると、
「ジンには恩があるし、それに私、結構ジンのこと好きなんだ!」
満面の笑みでそう答える彼女。それを見て、私は思った。あぁ…この子は秘密を持っているのだ、と。それを仮面で覆い隠し、年相応に振舞って大人たちの庇護欲を誘っているのだと。その証拠にこの子は、私にも擦り寄ってくる。警戒心などまるでないような可愛らしい顔で。私が彼女の頬を撫でると、嬉しそうに目を細める。
「…まるで、相手の喉を噛もうと隙を伺っている子猫ね」
あの子がどこまでやれるのか、見たくなった。だから、見守ろうと思った。あの子が死なないように。だが…
「なんて?」
「殺しの仕事だ。あいつにとっては初仕事だな」
数日前。私はそのことを知り、ゾクリとした。
最近、ジンがあの子のことについて調べていることを耳にした。あの子が日本で生まれ、そして…ジンに会ったあの国に至るまでの経緯もジンは知っている。そこから、彼の様子が変なのだ。まるで、手にしたものを手放さないようにとしているようだった。
「…………思った以上に、あの子は人の心を掴むのに長けていたようね」
だが、それは吉と出るのか凶と出るのか…
「だけど、私のすることは変わらないわ。まだあなたを死なせたくないもの」
私はジンに聞いた。失敗したらどうするの、と。彼は答えた。
「その時は殺すだけだ」
と。その目は本気そのもので…。ジンならばやりかねない…と私は思った。
「……生きるための材料は揃えてあげてるわ。あとは、それをどう生かすか。あなた次第なよなずな」