第6章 私の初任務とあの人の存在
「まったく…とっくに約束の時間は過ぎてますよ。どこで道草を食っていたんで………」
私は全力でバーボンに飛びついた。バーボンは不意をつかれてもなお、私をしっかり抱き留めてくれる。
「こら! 危ないでしょ!」
コツンっと軽く私の頭に拳をあてるバーボンに、私は腕を回した。
「……最初に言っとく、ごめんね」
「………??」
突如、ピリッとした空気が辺りを包んだ。
「………何故あなたがここに?ここがお好きではないと伺っていましたが…ベルモット」
「ただの見学よ。…あら、私にはそんなことしてくれたことないのに…ますます妬いちゃうわ」
私は震えていた。彼女の後ろにいる獰猛な犬に。それは、バーボンも感じ取ったようで、私の腕をそっと掴んで、私を自分の後ろへとやる。
「ただの見学にしては、随分物騒な方をお連れしているようですが?」
カルバドスはバーボンを睨みつけ、殺気を放っている。私はバーボンの服の袖をそっと引っ張った。
「………ベルモット。こんな奴に構っていないで、早く行こう。欲しいものがあると言っていただろ?」
カルバドスがスルッとベルモットお姉さんの腰に手を回し、お姉さんはそんなカルバドスを見てクスっと笑みを浮かべた。カルバドスはホッとしたように笑みを浮かべ、彼女の手を引こうとし……
「気が変わったわ。あなた、今日は帰っていいわよ」
お姉さんの言葉に動きが止まるカルバドス。ベルモットお姉さんは、カルバドスの腕を抜け、こちらへ歩き出す。重い空気がさらに重くなった。バーボンはひとつため息をつく。
「あら、ため息だなんて、いい男が台無しよバーボン」
バーボンの顔をそっと撫でるお姉さん。カルバドスからの重みが…ら。…冷や汗が止まらない。
「あら、なずな。駄目じゃない。教えたでしょ?」
カルバドスから離すことのできなかった目線を、お姉さんは無理やり自分の方を向かせた。お姉さんは悪戯っぽく笑っていた。
「《女は秘密を着飾って美しくなるんだから》」
だから、そんな顔しちゃ駄目よ、とお姉さんは口癖を言う。
「…変なことを教えないでくださいベルモット」
「必要なことよ? 男に勝つためには、女は仮面を被らないといけないんだから。秘密という仮面をね」
妖艶に笑い、バーボンの首に腕を回すお姉さん。私はハッとした。まさか……わざとやってるんじゃ……。