第5章 黒の組織の重要人物
~誰かside~
「…………あのー…バーボンさん?」
理由を説明したあと、先程からスコッチは俺の機嫌を伺うようにチラチラと見てくる。
「ちっ」
おれは盛大に舌打ちをした。それにビクッと体を震わせるスコッチ。俺は彼に構わずギロッと周りを睨むと、コソコソとしてたヤツらがヒッと声を出し、あわてて散っていく。
「あ、あいつらも、あのジンのお気に入りの子が、なんでバーボンに懐いてるのかって気になってるんだなぁ」
スコッチが少し取り繕うように早口で言った。俺は部屋に入ると、思いっきり近くにあったものを投げた。それは身体を震わせ、ベッドに叩きつけられ、少し呻いた。
「それで、なんで俺がジンの愛人って言われてるんだ!!言った奴…二度とその口がきけないようにしてやる!!!」
「ま、まぁ…ジンの耳に入らないように願うしかないな」
スコッチはベッドの上で変な体勢になりながらも、俺を宥める。俺は苛立つ気持ちを収えきれず、ダンベルをひとつダメになってしまった。その際、スコッチの小さな悲鳴が聞こえたのは無視した。
「しっかし、見れば見るほどただの女の子にしか見えねぇな。なんで、あんな子が組織入りしてるんだろうな?」
「………なぁ…スコッチ。お前気づいてるか?」
俺の言葉にきょとんとするスコッチ。そして、あぁ…と言った。
「…あのお二人の子供ってことか?なんだ。お前も気づいてたか」
その口ぶりから、こいつもまたあの子のDNA鑑定をこっそり行ったのだろう。俺はため息をついた。
「だいぶお世話になったもんな」
そうスコッチは言うと、ふぅっとため息をついた。
谷村俊太郎警部補、谷村茜巡査部長。俺らがまだ新人の時、俺たちの教育係だったのが谷村俊太郎警部補だった。その妻の茜さんは、よく俺たちに料理を振舞ってくれた。だが……彼らは二階級特進してしまった。追っていた犯人を、血眼で探したが、結局海外に逃亡した…という結果だけが残り、事件は迷宮入り。
「…守ってやろうぜ。今度こそ助けるんだ。じゃなきゃあの二人も浮かばれないだろ」
スコッチの言葉に俺は何も言えなかった。言えるはずがなかった。あの子を利用するつもりなのだと。あの二人が生きていたら、普通の温かい家庭で育っただろう彼女。俺はやるせない気持ちになり、2つ目のダンベルも駄目にしてしまうのだった。