第5章 黒の組織の重要人物
「バーボン?」
「え? …あぁ、すみません。少しぼんやりとしてました」
繋がれると思っていなかった手をちらりと見ながら、俺は彼女に笑いかけた。……思っていたより小さく、柔らかい手…。屈託のない笑顔を浮かべるこの子に…まだ年端も行かないこの子を…俺は利用して見殺しにしようとしている。俺は…
「バーボン…」
っ!!俺は今潜入中だ。感傷に浸っている場合じゃないだろ!俺は心の中で自分を叱り、貼り付けたような笑顔で取り繕った。
「どうしました?」
「あのね……」
じっと繋がれた手を見る少女。…あぁ、このくらいの年頃の子は嫌がるのか…。俺は手を離そうとした。しかし、彼女は繋いだ手に力を込め、顔を上げた。
「私ね、初めて手を繋いだ!」
それは今の俺には眩しいくらい満面の笑みで……。正直、そんな笑顔を向けないでほしいと思った。
「手を繋ぐのってこんな感じなんだね!」
クスクスと嬉しそうに笑う少女は、俺の手を少し揺らした。その横顔は、ある2人の顔を想像させるのは容易くて……俺はますますため息をつきたくなった。
「………彼女もまた、我々の守るべきものの1人何じゃないですか…」
こんなにやりづらい任務だとは思わなかった…。