第5章 黒の組織の重要人物
彼が殺されたあと、私はいつものように眠りについた。任務のあと、必ず寝る習慣がついており、またその眠りは浅く、夢を見るようになった。
「よくも俺を殺したな」
目の前で血だらけの体が私にそう言う。………そう言えば、私は初めて自分と他人の命を天秤にかけたな…とぼんやりと思った。体は叫ぶ。
「俺はお前を助けようとしたのに」
知らない。
助けなんていらない。
私は1人でもやれる。
「お前は俺を殺した」
私が殺したんじゃない。
ジンが殺した。
私は自分の身を守ろうとしただけ。
私は悪く………
「紬」
私はとっさに顔を上げた。私のことを…そういう風に呼ぶのは……1人しか………
「あ………」
目の前には何も変わらぬ姿で、あの人が立っていた。相変わらず、暑そうなニット帽を被ったその人は、あの頃と変わらず無表情で私の前に立っていた。この人が夢に出てきたのは、本当に久しぶりだった。でも……。私は顔を伏せた。
「紬」
また私の名前を呼ぶこの人。それは私を非難しているようで…私は耳を塞いだ。
「紬」
うるさい!うるさいうるさいうるさい!!今更なんだ!今頃出てきやがって!あれだけ、出てきて欲しい時は出てこないで!!なんで……なんで今!!!!!!!
「つむ……」
「うるさい!!私はあんたなんていなくても生きて行く。今までもこれからも!みすぼらしくても、醜くても、一人で生きていける!! 自分のためなら他人の命だって踏みつけてやる!!そうでしょ? だって…だって私は…………私には…」
何も無いんだもの。大切なものも大事な人も……あなたの顔だって忘れてしまった私には……何も無い。